通常、民事訴訟を提起するときは、原告側は原則として氏名と住所を訴状に記載しなければなりません。氏名は民事訴訟法134条2項1号、住所は民事訴訟規則2条1項1号です。

 

ただ原告がDVの被害者でありシェルターなどに避難している場合や、原告が性犯罪被害者で住所を被告に開示すると二次被害が予想される場合などの場合は実務上の運用で原告の住所が被告にバレないようにしていました。たとえば住所を住民票上の旧住所にしたり、代理人弁護士の事務所にしてみたり、単に「秘匿」としてみたり。裁判官や裁判所によって、また事案によってどこまで許されるかがまちまちでしたが、現場の工夫でなんとかしていました。

 

それが2022年の民事訴訟法改正で、正式に氏名住所の秘匿措置の申立を裁判所に求めるという形で法定され、2023年の2月20日に施行されます。秘匿措置が取られると、訴状に、決定で定められた秘匿事項(氏名や住所など)を書かなくてよくなりますし、第三者への訴訟記録の閲覧謄写に際しても、その秘匿事項は秘匿されることになります。

ただ、この制度を知った方の多くは、提訴するときに氏名住所の秘匿を望まれると思います。誰だって訴える相手に自分の個人情報を渡したくないですからね。

しかし多くの場合、それはできません。要件として「社会生活を営むのに著しい支障を生ずるおそれがあること」を申し立てた側が疎明しなければならないからです。DVや性犯罪被害者、あとは被告から現に脅迫されている場合など、かなり限定的な場面でしか秘匿決定はされないでしょう。

 

 一方で、相手方の手続保障の観点から、民事訴訟法133条の4第1項で当事者又は第三者による取消申立権、133条の4第2項で、訴訟の相手方に対する閲覧等請求権が設けられました。やむを得ないのかとは思いますが、現在の住民票の秘匿措置に対してだいぶ攻撃的な対処をしている人たちが多いのを見ると、この手続も相手への攻撃に濫用される心配があります。実際、立法の際は濫用の恐れがあるので秘匿措置の取消申立権や閲覧等請求権の規定を設けることに強い反対があったようです。

 

ともあれ今までは現場の運用でカバーしていたところについて、立法がなされたという感じなので、この制度の導入でそれほど裁判実務が変わるとは思えません。これで裁判手続が利用しやすくなればいいのですが・・・