最近、ホームレスの方にウソをついてレジ前に置き去りにして、それを動画撮影して公開した人達が「建造物侵入罪」で書類送検されたというニュースがありました。

https://news.yahoo.co.jp/articles/6df6c0b68247b76d98d15620a71ce5209311c4a8

 

このニュースの反応を拝見すると、「建造物侵入罪」というのが意外な方が多かったようです。確かにこの罪で捜査するの?というのはびっくりするかも知れません。

 

推測ですが、多分他の罪で立件しようとしてもどの罪に該当するかが難しい一方で、社会の反響も大きく道徳的にも問題だと考えた警察が、適用しやすい建造物侵入罪での立件を行ったのでしょうね。

 

建造物侵入罪の適用がしやすい理由の一つとしては、店舗など一般の方が広く立入って利用する建物であっても、違法行為をする目的で立ち入った場合は広く建造物侵入罪が成立するとされているからです(大塚裕史他著「基本刑法Ⅱ 各論【第2版】」90頁)。判例では銀行のATMにカメラを設置し、暗証番号や名義人氏名などを盗撮するためにATMのある銀行出張所に立ち入る行為に建造物侵入罪を認めたものがあります(最判平成19年7月2日刑集61巻5号379頁)。学説に異論もあるところですが、実務では完全にこの判例に従って運用がなされています。

 違法行為そのもので処罰するのではなく建造物侵入罪で処罰するのはどうなのかとか、運用次第では処罰範囲が広がりすぎてしまうのではといった懸念もありますが、今のところ警察実務は、それほど不適切な運用はなされていないようです。

 

実はこの建造物侵入罪のように、けしからん行為そのものについて罪に問いづらいが放置は出来ないというときに、処罰範囲の広い罪を適用して警察が動くというケースは結構あります。その際に使える「警察側の便利ツール」としての罰条が結構あります。ぱっと思いつくのは、建造物侵入罪を定めた刑法130条、詐欺罪を定めた刑法246条、威力/偽計業務妨害罪を定めた刑法233条・234条でしょうか。機会があれば、それらがどのように警察側の便利ツールになっているのか解説したいと思っています。

法の隙間を塗って悪いことをする人々を野放しにするわけにはいかないが、罪刑法定主義という大原則がある以上、法律を適用できなければ罰することは出来ない。現実と建前の狭間で苦悩していらっしゃる警察の方々に、頭が下がる思いです。と同時に、このジレンマが冤罪の原因になったりするので、犯罪の取り締まりというのがこんなにも難しいものなのか、と思います。