最近は、特にSNSで、子どもを連れて別居を始めることを「連れ去り」とし、未成年者略取誘拐罪が成立すると嬉々として述べる意見を見ます。

それに影響されたのか、各種法律相談サイトでも、「子どもを連れ去られました。未成年者略取誘拐罪で告発しようと思いますが、そうすれば子どもに会えますか?」とか「子どもを連れて別居をしようと思うんですが、これは未成年者略取誘拐罪になりますか?」といった質問が見られるようになりました。

結論から言うと、主に子供の面倒を見ていた方の親(多くは母親ですが、父親であることもあります)が、子どもを連れて別居を開始した時に未成年者略取誘拐罪が成立するとして警察が動くことはまずありません。可能性としてゼロに近いです。私も弁護士になってそこそこ経ちますが、そんなケース見たことがありません。

たしかに行為者が親権者の一人でも未成年者略取誘拐罪が成立することはあり得ないわけではありません。判例として最決平成15年3月18日、最判平成17年12月6日があります。令和4年2月21日付警察庁刑事局捜査第一課理事官事務連絡も、この2つの判例を挙げて全国の警察に注意喚起しているところです。

ただ、平成17年判例の方が述べているのですが、親権者によって子どもを略取誘拐する行為は、「家族間における行為として社会通念上許容される枠内」であれば違法性は阻却されて犯罪は成立しないのです。そして、面倒を見ている親が子どもを連れて別居をすることは、ほとんどの場合、社会通念上許容される枠内と判断されているのです。

 現に、この二つの判例は、面倒を見ている親が子供をつれて別居したことが罪に問われているのではありません。

そのような形で別居した後、面倒を見ていない方の親が、子どもを奪い返しに来た行為が罪に問われているのです。しかも平成15年判例の方は夫が病院から無理やり子どもを連れて言ったケースであり、平成17年判例は、保育園に迎えに来ていた妻の母が子どもを車に乗せる準備をしていた隙をついて、子どもを抱きかかえて全力疾走で自分の車に乗せて、妻の母が窓を叩いたりして制止するのを無視して車を発進させたというケースでした。いずれも行為の態様が悪質すぎるケースです。

特に子供を連れて別居されたほうの親が、配偶者憎しのあまり、刑事告訴や告発して、ろくに対応してくれない警察に怒りをぶつけていることが法律相談でよくあります。でも子連れ別居された場合に刑事告訴・告発は手段としてはかなりマズいです。自分がメインで面倒を見ていた場合は子の監護権者の指定及び子の引渡の仮処分の申し立てを、そうでない場合で子どもに会いたい場合は面会交流調停申立をしましょう。それをせずに刑事告訴・告発をしても逆効果です。

憎たらしい気持ちは大変よくわかるのですが、ここで手段を間違えると、勝てるものも勝てなくなります。