刑法という、犯罪と処罰を取り決めた基本法のような法律があります。司法試験でも当然勉強します。

怖いのは、刑法が古い法律だからか知りませんが、同じ言葉が全く違う意味で使われていることがあります。典型的なのは「横領」です。ちょっとx(旧twitter)で話題になったので思い出しました。

こういう「暗黙の了解」みたいなのが大学や大学院で勉強しないと分からないのが、法律学の世界の怖いところです。

 

横領罪の横領というのは、人から預かっているお金を自分が使っちゃうこと、正確にいえば横領罪(刑法252条)や業務上横領罪(刑法253条)における横領とは、判例(最判昭和24年3月8日)の見解によれば、「他人の物の占有者が委託の任務に背いて、その物につき権限がないのに所有者でなければできないような処分をする意思」を実現する全ての行為を指す、とされています(条解刑法第4版補訂版829頁~830頁)。

 

問題は、道端で拾った財布を警察に届けなかった場合などに成立する遺失物等横領罪(刑法254条)の「横領」は、上記の意味とは全然違う意味を持ちます。道端で拾った財布について、委託の任務なんてないからです。刑法254条の「横領」とは、その物の効用に基づいて所有者でなければできないような処分をする行為を指します(大塚他「基本刑法Ⅱ―各論【第3版】305頁」。この点で、条文の位置はともかく、遺失物等横領罪はその前の横領罪や業務上横領罪よりも窃盗罪に近いとされています。

 基本書などでも、遺失物横領罪の「横領」は刑法252条の横領罪の「横領」と同じなどと書いてあるものもあるので注意が必要です。

 

他にも、刑法175条の公然わいせつの「わいせつ」と、176条の「わいせつ」ではだいぶ違う意味が違うのですが、最近法改正があったばかりなので、機会があればまた紹介します。