前に紹介した「横領」よりも深刻な問題として捉えられているのが「わいせつ」概念です。刑法175条でわいせつ物頒販売罪が定められ、刑法176条で不同意わいせつ罪が定められています。最近の改正で刑法176条は不同意わいせつになりましたが、その前は強制わいせつ罪という名前でした。

どちらも定義自体は175条について刑法175条について定義を示した最判昭和32年3月13日の定義、すなわち「徒らに性欲を興奮又は刺激せしめ、且つ、普通人の正常な性的羞恥心を害し、善良な性的道義観念に反するもの」と示す文献が多いです(例えば前田雅英「刑法各論講義」第7版97頁。司法試験受けるときは暗記したりします。

 しかし、同じ定義であるにもかかわらず、刑法175条と176条のわいせつは違うことは古くから意識されており、176条のわいせつにはキスは含まれるが175条についてはキスは含まれないなどの共通認識はありました(例えば「条解刑法」第4版補訂版523頁)。どちらも「わいせつ」概念のあいまいさから限界がシビアな理論的問題ですが、ここでは175条の「わいせつ」と176条の「わいせつ」は同じ言葉が使われているのに意味が違うことを指摘するにとどめます。どちらの限界もも多くの学者の研究対象になっている難問なので。