カン違いしやすい法律用語として、「否認」という用語もあります。カン違いしやすいというより、いろんなところで違う意味で用いられてたまにどの意味の否認なのか分からなくなることがあるのですね。

 (うちの業界で)ポピュラーなのは、刑事事件で、公訴事実を争う方針で臨む事件の方針を「否認事件」と呼ぶときでしょうか。要するに、起訴されたあるいは捜査対象となっている犯罪事実は存在しないというスタンスの事件です。刑事弁護人は結構シンドイです。

 他に、民事訴訟で、相手の(主要事実の)主張について、認否をしなければならないのですが、相手の主張を間違っている、争うというときも否認と言います。こちらもポピュラーです。

 ここまでは、さして混乱しないかも知れません。。法律用語としては、他に以下の三つがあって、たまに混乱します。

 一つ目は、破産法などの倒産法で、偏頗弁済などの破産財団に属すべき財産について破産債権者を害する行為がなされたときに、管財人などがその効力を否定することです。否認権とも言いますが。

 二つ目は、民法で、法律上の夫婦間に生まれた子どもが自分の子供ではないと主張し扱ってほしい場合、一定期間内に「嫡出否認の訴え」を提起しなければなりません。これは無戸籍者対策などのための最近(令和4年12月10日)法改正がなされ、出訴期間が子の出生を知ったときから1年だったのが3年に延長されたり、今まで父親だけ可能だったのが母や子もできるようになりました。

 それから、税法で否認という言葉が出てくることがあります。租税回避、すなわち租税法規が予定していない異常又は変則的な法形式を用いて税負担を軽減する行為に対して、その法形式を租税法上無視し、通常用いられる法形式に対する課税要件が充足されたものとして取り扱うことを租税回避の否認と言ったりします。

 

「否認」がカン違いしやすい法律用語というよりは、ここで紹介した倒産法、民法、税法の「否認」が特殊すぎて難しいというべきかも知れませんね。

 

我々が仕事をしていると、心理学での「否認」という用語を見ることがあり、ここでも頭がこんがらがることがあります。心理学では、不都合な事実を無視する心理を指すようですが、専門外なので正確な理解ではないかも知れません。