法律相談などでもよく見かける相談として、「慰謝料請求できますか?」というものがあります。相談にいらっしゃるお客様だとそういうことはないんですが、ネットの法律相談だと、不快感を感じたら慰謝料請求ができると考えている方が結構いらっしゃいます。

当然そういうことはなくて、慰謝料とは「精神的損害に対する賠償金」ですので、賠償の要件を満たさないといけません。賠償請求が認められる法的根拠は、ほとんど民法709条・710条なので、その要件を満たすことが必要です。書籍などだと民法709条の要件は、①故意又は過失があること、②権利又は法律上保護される利益の侵害があること、③損害の発生、④因果関係と説明されます。②は、前回のコラムでも書きましたが、違法性とほぼイコールだ、とも言われます。不快感を感じたら慰謝料請求ができるとは限らないのは、主に②の要件があるからですね。違法性があると言える程度に社会的相当性を逸脱した行為によって損害が発生しなければならないのです。

少なくとも私の経験からいうと、慰謝料請求の要件として、もう一つ⑤加害行為の存在があげられます。パワハラやいじめならどんな行為で損害を被ったのか、嫌がらせなら具体的にいつどこでどんな行為をされたのか、裁判所はその特定と立証を求めることが多いです。これが慰謝料請求の実務上難しいところです。またプロとアマチュアの慰謝料請求の訴状を見るとこの加害行為の特定を意識して行っているアマチュアの方をほとんどみかけず、かえって雑に扱っている方が多いです。この点もご留意頂くと裁判実務が正確に理解できるように思います。