とある法律相談サイトで、「独立国家を作りたいのですが、どうすれば作れますか?」みたいな質問があったんですね。法律相談かどうかはともかく、興味深い質問だと思いました。

 

私は星新一のショートショート「マイ国家」を連想しましたが、ドラえもんでもそんな話がありましたね。建国というのは、人の心を引き付けるロマンがあるのでしょうか。

 

個人が国家を作りたいという運動・活動はわりとよく見られるのですね。調べてみると現実には国際的にもそこそこあって、「ミクロネーション」などと呼ばれています。シーランド公国が有名でしょうか。

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%9F%E3%82%AF%E3%83%AD%E3%83%8D%E3%83%BC%E3%82%B7%E3%83%A7%E3%83%B3

 

日本でも一時「ミニ独立国」の建国ブームがあったのですが、こちらはどちらかというと町おこしの一環で、真剣に独立を目指したわけではないようです。

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%9F%E3%83%8B%E7%8B%AC%E7%AB%8B%E5%9B%BD

 

法的にはもちろん「独立」を宣言したからと言って、日本の土地がその「独立国」の領土になったり、通貨発行権や課税権などが当然に得られたりするわけではありません。法的には「独立」には二つのハードルが立ちふさがります。

 

一つ目は、領土の問題です。日本の領土は日本法が適用されるわけで、日本の領土を新しい独立国の領土に勝手にすることは出来ません。

国家である要件を定めたとされる「国家の権利及び義務に関する条約」(通称:モンテビデオ条約)では、国家たる要件として、①恒久的な住民(a permanent population)、②明確な領域(a defined territory)、③政府(government)、及び④他国との関係を取り結ぶ能力(capacity to enter into relations with other States)を上げています。

このうち②を得ることが現代の日本では困難なんですね。地球上に無主地は事実上存在しないとされているので、領土を新しく得るのは困難なように思います。

 

もう一つは、国家承認の問題です。

あまり知られていないことですが、国際社会において、中央政府にあたる機関は存在しません。このことを国際社会のアナーキー性と言ったりしますが。そのため、ある「独立国」が国家であるかどうかを判定する機関もありません。

そのため、既存の国々に、それぞれ自分の「独立国」が国家であると承認してもらわなければ、その国と国交を結んだり独立国としての権利を認めてもらえません。しかし、国家承認は個々の国の裁量事項とされており、「独立国」が国家承認されるかどうかは、それぞれの政府に委ねられます。

そのため、前記のモンテビデオ条約の4つを満たしたとしても、日本やその他の国に国家承認してもらえないことがあります。日本は歴史的な理由で、多くの国が国家承認している台湾(中華民国)や北朝鮮、パレスチナを国家承認していません。それらの国ですら承認されないのに、突然私たちが国を作ろうと思って独立を宣言したところで、認めてもらえないでしょうね。

前記の地方自治体の「ミニ独立国」の取り組みも、それらを分かっていて、本気で独立するわけじゃなくていわゆるキャンペーンとしてやっていただけのように見受けられます。

 

というわけで、今の日本で独立国を作るのはほぼ無理ということになるでしょうね。

ロマンのない結論ではありますが、仕方がないところです。

 

こういうのは、町おこしや夢に満ちたロマンで話が終わっているうちはいいのですが、この問題は実は深刻な懸念をはらんでいます。古今東西、戦争の口実や大義名分として、この「独立国」が使われることがあるからです。つまり、ある国で国家承認が得られず迫害されている「独立国」を国家承認して救済するため、軍隊を派遣してその国を「防衛する」という大義名分で軍事侵攻が行われることがあるのです。

日本でもこういう動きが現実化しないことを、切に祈るばかりです。

 

参考文献:小松一郎「実践国際法」第2版