日本司法支援センター(法テラス)の民事法律扶助制度というものがあります(https://www.houterasu.or.jp/housenmonka/fujo/index.html)。これは基準額以下の収入・資産の方について、法律相談は無料に、訴訟等の弁護士費用は安くかつ分割払いが可能になるというのがメインです。私も契約弁護士ですので、当事務所でも利用可能です。

 

これは特に貧しい人が裁判手続を利用するには便利なものと思います。私が言うのもなんですが、弁護士費用はやはり高くなってしまうので。

ネットでちょっと検索すると、弁護士費用をお得に済ませる裏テクニックみたいに紹介しているのも散見されます。

 

しかし民事法律扶助制度にはデメリットもあります。簡単に言うと、法テラスを利用すること前提では弁護士が受任を拒否したり、引き受けてくれる弁護士が見つからないことがあるのです。

民事法律扶助制度の利用の場合、弁護士費用は一旦法テラスが弁護士に支払い、依頼者の方は法テラスが分割払いで払うのが原則なのですが、この弁護士費用があまりに安すぎて、事件類型によっては採算が取れないのです。

 医療では、患者負担分だけではなく市区町村などの保険者が負担する分というのがあって、その合計を医師は受け取れるのですが、弁護士の場合法テラスが支払うのが全てで、別途どこかから報酬をもらうことが禁じられています。

 報酬が安すぎて採算が取れないため、大都市を中心に、弁護士の中で法テラスから距離を置く動きがあります。私のいる山形では法テラスとの契約弁護士(=民事法律扶助が使える弁護士)はまだ90.3%ですが、東京は32.7%です。山形で弁護士を探すなら法テラス利用を前提にしてまだ探せますが、東京で満足のいく弁護士を法テラス利用で探すのは、現在困難になっているといわざるを得ません。

 また、法テラスと契約しているから、全ての事件類型で法テラスを用いて弁護士が契約しているとは限りません。特定の事件類型だけ法テラスを使い、あとは使わないという弁護士もいるのです。私の肌感覚になりますが、法テラスと契約しているが法テラスの利用を避ける弁護士はだいぶ増えてきているように感じます。「法テラスで受任は出来ない」というと怒る依頼者の方がいらっしゃるので、それを明示せずやんわり断られることが多いですが。

 

 わたしの感覚で言うと、破産などの債務整理は比較的採算が取れますので、法テラス利用による受任にあまり抵抗はありません。

 一方、通常の民事訴訟は若干きつくなりますし、離婚、建築訴訟や医療過誤などの専門訴訟、発信者情報開示などは採算を取ることがかなり困難です。そのため、法テラスでこれらの事件を受任することは現在あまりしていません。依頼者の方がよっぽどお困りの場合、受任させて頂くことがありますが・・・

 

 私は弱い人を助けるために弁護士を目指し弁護士になったので、お金を理由に依頼を断ることにはいつも罪悪感を覚えます。相談者の方が大変お困りならなおさらです。しかし、可哀そうな余り法テラスを利用して安値で引き受けてしまうと、事務所経営を圧迫し、お金で苦しむことになります。下手すると食べていけないレベルで困ることがあるのです。私自身も事務所設立後すぐの頃は積極的に法テラスを利用してきましたが、恥ずかしながら、そのせいで苦境に陥ったことがありました。

 そのころの苦しさを思い出すと、追い詰められた方が法テラス利用で依頼したいという場合、とても悩みます。

 

 現状は、法テラスとのスタンスは弁護士によってばらつきがあり、法テラスを積極的に利用する弁護士もいます。特に山形や庄内はまだまだそういう弁護士が多くいるように感じます。

 ただ、法テラスの報酬の安さゆえに相当数の弁護士がジレンマに陥っていることもまた、広く理解されて欲しいと願うばかりです。