各種法律相談サイトで相談に対する回答をさせて頂いておりますが、最近はネットやSNSでの名誉毀損や発信者情報開示に関するご相談がとても増えているように感じます。

その中で多いのが、特定の文言を書き込むと名誉毀損や侮辱に当たるのか、発信者情報開示はされてしまうのか、というご相談です。たとえば「バカ」と書いたらダメかとか、「頭が悪いと思う」ならいいのかとか。

気持ちは大変よく分かるんですが、たいていの場合、ネットの法律相談では、「一概に言えない」という曖昧な結論になってしまいがちです。なぜなら、文脈をみないと断言できないからです。要するに、どのようなサイトでどのような話の流れで、「バカ」とか「頭が悪い」という話になってしまったのか、それによって結論が異なり得るのです。

分かりやすい例として私がよくあげるのが、「火の元にご用心」などと書いたはがきが脅迫罪にあたるとした最判昭和35年3月18日・刑集14巻4号416頁です。これだけ見ると驚きます。火の用心と言ったら脅迫になってしまうのかと勘違いしてしまいそうです。脅迫罪が成立するような脅迫のケースはたいてい人格権侵害として発信者情報開示が認められるので、現代のネットだったら発信者情報開示が認められると勘違いしてしまいそうです。

しかし判例の事案をよく読むと、この判例はとある地方公共団体の住民が二つの派閥に分かれてそれぞれ住民運動をしているときに一方の中心人物に出されたもので、状況から見ると放火の予告をしているとしか見えない事案なのです。実際この判例の事案でははがきを出されたほうは寝ずの番をしたそうです。そこまで考えると、まあ判例も妥当かな、という気がします。

ただこの判例が「火の元にご用心」というはがきを、周辺事情や文脈を見て判断したように、「バカ」とか「頭が悪い」とかいう書き込みが名誉毀損や侮辱にあたり発信者情報開示が認められるのかは周辺時事情や文脈を見ないと判断できないのです。

ご理解が広がることを願うばかりです。